無題
「ジンジン」
彼は心持ち眉根を顰めてこちらを向く。
「さん、好い加減その呼び方やめてよ」
予想通りの反応。
あたしは可笑しくて噴出しそうになる。
彼をからかうのが楽しくて堪らない。
神宗一郎は最近あたしのお気に入りだ。
「だってジンジンじゃん」
「いや、間違ってはないけど……」
「フクは呼んで良いのにあたしは駄目な訳?」
「んー……駄目」
「うっわぁ。あいつに負けんの屈辱的」
神宗一郎とは中学から一緒だったけれどこんな風にふたりで話すような仲じゃなかった。
男友達のフクが仲良かったから幾度か話したくらい。
でも高校も一緒で、偶然同じクラスで。
まだクラスに慣れないこともあって最近よく一緒にいる。
「神くんじゃよそよそしいから好きに呼んで良いよって言ったのはジンジンじゃん!」
「でも駄目」
「んじゃ宗一郎さん」
「ブッ!」
「噴出すなよー」
「何、それ?」
「は?」
「その呼び方はちょっと……」
「だってあたしのこと『さん』って呼ぶじゃんか。
あたしも結構そう呼ばれるの好きじゃないんだけどなぁ」
「じゃあなんて呼べば良い?」
「んー、呼び捨て?」
「じゃあ俺も呼び捨てにしてよ」
「うん、分かったよ宗一郎」
「……ちょっとタイム」
「何?」
「なんか恥かしいから前言撤回」
……。
「なんだよ! 喧嘩売ってんのかよジンジン!」
「だからそれやめてってば!」
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