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コミュニケーション





シャツの釦が床に飛び散って転がる。

家庭科2のあたしはソーイングセットなんて持ってないわよ。

どーしてくれんの。

そんな呑気なことを考えているうちに肌に唇が吸い付く。

「ん……ちょっと勘弁してよー」

あたしの言葉なんて夢中になっているこいつの耳には入らない。

無言の否定。

あー、なんであたし……――

「なんであたし、あんたにレイプされてんの? ねぇ、神……」



まともに仲の良い女の子いないあたしが高校入ってから一緒にいるのは神宗一郎。

男だ。

正直女が苦手なあたしは大概男と仲良くなる。

性別を越えた友情ってやつ。



の、筈だったんだけど――



休み時間、机に突っ伏してダラけていたら

前の席に座って視線を合わせるように神が私の机に頭を置いた。



「なーぁに」



「何よ」



……意味不明。

神は時々訳が分からない。

いや、たぶん今まで付き合ってきた奴らだったら普通に思えたかもしれない。

つーか無視してると思う。

でも神はルックスも成績も秀でていて、優しくて温厚、

そのうえバスケ部のレギュラーだったりもして、とにかく女の子にモテる。

正統派という言葉がお似合いな奴。

その所為でこういう一面がちぐはぐに思えて、気になってしまう。

「だから何だっつーの」

「俺、やばいかも」

そんなことを言って瞼を伏せる。

数センチ手前、神の顔はそりゃあもう整っていて悔しいくらい。

睫毛が長いなぁ。

「ねぇ、睫毛ちょうだい」

「んー、にならあげるー」

「……どうやってだよ。くれるもんなら今すぐくれよ」

重症。

本気で神はやばいみたいだ。

「神、どーしちゃったのさ?」

「やばいんだ」

「どこらへんが?」

「分かんないけど……欲望?」

「何それ」

神から出てくるにはだいぶ不釣合いなその単語に笑う。

「なんで欲望がやばいの?」

「足りなくて」

「何が?」

「コミュニケーション」

「こみゅにけーしょん?」

「うん、コミュニケーション。こんなんじゃ全然足りないんだよ」

あー、ごめん、神。

あんたの言うこと高尚なんだか可笑しいんだか知らないけどよく分かんないよ。

「俺ってやっぱやばいのかなー?」

見開かれた眼があたしを凝視した。

「まぁ、そうでもないんじゃない?

 無責任なことしか言えないけどねー、神はちょっとストイックなところあるじゃない?

 そうやって無意識に自分の首締めてんじゃない?」

「んー?」

「だからさ、たまには自分を甘やかしてみれば?

 コミュニケーションで欲望満たしてあげればやばくなくなるんでしょ?」



つーか自分の首締めてんのはあたしじゃない。

「ねぇ、腕痛いんだけど」

神のベルトが内側の柔らかい肉に食い込んでいるうえ、

それを神のデカい手で押え付けられているものだから痛いのなんの。

「もーやめようよー」

が自分を甘やかせって言ったんじゃない」

「それはそうなんだけど。

 でも神、これはコミュニケーションじゃなくてスキンシップって言うのよ」

「コミュニケーションだよ」

いやいや、犯罪だろーが。

楽しそうな顔しやがって、この変態。

「どこの世界にこんなコミュニケーション図る友達がいるんだよー」

「今、ここに」

「ふざけんな」

「俺は本気」

そんなの分かってる。

こんなこと冗談でされたら堪ったもんじゃない。

「んっ……」

身体が跳ねると調度の悪い図書室の床が軋んで響いた。

首筋をなぞる神の唇が妙にあたしの肌と馴染んで、

腹立たしいことにちゃんと快楽がやってくる。

非常に近い温度を持ってるからだろうか。

「気持ち良い?」

「まぁね」

嬉しそうに笑う神は判断能力を持たない子供を思わせた。

「でも、もうここでストップ」

「なんで駄目なの?」

「うちら友達じゃん。コミュニケーションにももっと他のやり方あるでしょ?」

とはもうコミュニケーション図り切っちゃったよ」

「じゃあ、あんたはそう遠くない未来、信長ともセックスするつもり?」

「やだよ、それ。男同士でそんなことする趣味無いもん」

「じゃあ……」

「俺は男では女。

 これって異性のあいだでの最高のコミュニケーションでしょ?」

初めてこの笑顔が憎いと思った。

――あんた、間違ってるよ

そんな言葉は神の唇に飲み込まれる。



、大好きだよ」



スカートの中を弄る神の長い指に感じながら、これからは女と友達になろうと思った。














































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