おとこのこ





ふわりと揺れる柔らかな長い髪。

くるっと丸い眼はきらきら光ってる。

小さくて、ふにゃっとしてて、抱き締めたら壊れちゃうんじゃないかと思う。



、鏡見てみなよ。今、すごい顔してる」

長太郎が向けてきた鏡に眼をやると、そこには可愛さとは縁のない顔が

これまた醜い顔をしていて余計惨めな気分になった。

「チクショウ、女なんてこの世から消えてしまえば良いのに」

絶望的だ。

俺は自分の顔を覆った。

「荒れてるなぁ」

長太郎は俺の気も知らないで、いや、知ってるクセに優雅にミルクティーを飲んでいる。

「だって!……だって今度こそ……おしまいだ」

机に突っ伏すと長太郎が慰めるように俺の頭をぽんぽんと叩いた。

でもそんなのは意味がない。

俺に必要なのはお前の手じゃない。

女という性別だ。

どうして俺は男になんて生まれてしまったんだろう。

本気で親を恨みたくなる。

「日吉の事だからすっぱり断ってくると俺は思うよ?」

「でも、あんな可愛い女の子じゃさすがの若も心が動かされるかもしれない」

「そうかなぁ?」

「だって想像してみろよ? あの可愛い女の子と若……お似合い過ぎる」

「俺はとの方がお似合いだと思うけど」

「慰めでもそんな事を言うな。本気で惨めになる」

俺は男で、若も男で、どこをどうしたって不自然過ぎる。

まぁ、そうだ、自然の摂理として不自然なんだから当たり前の事だ。

それがどうしてこんなに泣きたくなるのだ。

常識を受け入れろ、俺。

「なぁ……性転換って高いのかな?」

「っ!」

長太郎が口に含んだミルクティーを噴出しそうになった。

「おい、口端に垂れてるぞ」

そんな姿女の子が見たら泣くな。

うん、俺でも情けなさ過ぎて泣けてくる。

が変な事言うからだろ」

清潔なハンカチで口元を拭う長太郎。

そういえば俺はハンカチすらまともに持っていない。

女の子に勝てる筈もないよな。

いや、違う、原因はもっと根本的な部分だった。

「変な事? 人が本気なのに失礼な奴だな」

「性転換なんて本気で考えてるの?」

「そうでもしなきゃ俺には若に愛を伝える資格すらないんだぞ。

 男というだけでその権利が剥奪されるなんてあんまりだろ?」

「俺、時々が非常識なんだか常識人なんだか分からなくなるよ」

「俺はまともだ」

「あー、はいはい。でも性転換は少なくともこの年齢では受けられないから諦めな?」

「あ」

そうだった……うっかりだ。

じゃあ俺はどうすれば良いんだ。

どうすればあの生きものたちと同じラインに立てるんだ。

告白も出来ずに若を見知らぬ女の子に奪われるのを黙って見ているだけなんて嫌だ。

俺だって若が大好きだって世界中に宣言したい。

「やっぱり女なんてこの世から消えてしまえ」

「コラ。

 はホモだから良いかもしれないけど

 俺を含め世の中の男性ほとんどが正常な性癖を持ってるんだからね」

「がーん! 長太郎、今俺の事ホモって言ったな! ホモって!」

「だってホモじゃん」

「馬鹿野郎、ホモじゃねーよ!」

は男で、日吉も男で、日吉を好きなのどこがホモじゃないって言うの?」

「俺はただ若が好きなだけで断じてホモじゃない。気持ち悪い事言うな」

「いや、俺には何が違うのかイマイチ分かんないんだけど」

「あーあ、女絶滅しないかなー」

「女性が絶滅するのを待つくらいだったら性転換の方がまだ早いと思うけど……」

「そうだよなー。

 結局俺は若に気持ちを伝えられないでこうして喚くしか出来ない日々を送る他ないんだ」

若が女の子に告白される度に長太郎を巻き込んで嘆くのを繰り返す日々。

俺が若を好きになってもうすぐ1年で、1ヶ月に1〜2回はこういう事が起こるんだから

……もう何度繰り返してるのだろう。

俺はそのあいだ何も出来ずにいた。

もうこんなの嫌だな。

「ねぇ、告白しなよ」

「え?」

だってこういうのもうつらいだろ? 今まで言わずにいたけどさ、好きだって伝えなよ」

「……」

「ね?」

「……何言ってんだよ。そんな事したら気持ち悪がられるに決まってる。

 もし俺が長太郎に告白されたら気持ち悪い事この上なくて

 お前の顔に上段回し蹴り決めて一生口聞かねーよ」

「なんか全然そんな気ないのになぜかちょっと傷付いたんですけど」

「若に軽蔑されたら俺、本気で生きていけない……」

長太郎が小さく笑う。

「そりゃあが男だって事実は変えられないけど

 本気で伝えれば日吉だって分かってくれると思うよ。

 絶交とかはないって。だから言ってみなよ」

「……」

本当にそうだろうか?

若はモラリストだから軽蔑される気がする。

でも、もし「お前は馬鹿だなぁ」なんて笑って許してもらえるなら、

俺は若が大好きだって伝えたい。

だけど……恐くてとてもそんな事出来やしない。

「あ」

長太郎の声に反応して振り返ると若が教室に入ってくるところだった。

そうだ、俺は忘れていたけれどあの女の子と付き合う事になったなら

今まで考えていた事は全て無駄なんだった。

どうしよう。

結果は気になるけど訊くのはもっと恐い。

「おかえり日吉」

「あぁ」

若は幾分疲れた顔で俺の隣の席に座った。

「わ、若」

「ん?」

「あのさ……」

駄目だ、声が震える。

――さっきの子告白だったんだろ? なんて答えたんだ?

台詞は頭の中に用意されてるのに、言葉が喉の辺りに引っ掛かって上手く出てこない。

そんな自分の意気地のなさに腹が立つ。

「さっきの……」

「日吉、告白されたんでしょ? なんて答えたの?」

「ぎゃーっ!」

長太郎め、俺が死に物狂いで言おうとした台詞をさらりと言ってのけやがって。

じろりと長太郎を睨むと長太郎はそれを軽く無視して「、うるさいよ」と言った。

「で、どうだったの?」

「どうって……」

若が困った顔をする。

なんでそんな困った顔するんだ。

もしかして照れて……わぁー! 嫌だ! 俺、今すごい嫌な想像した。

どうしよう……若が誰かのものになっちゃったらどうしよう。

若の事をじっと見つめていたら眼が合った。

そして視線をふっと逸らして――

「断ったに決まってるだろ」

……。

…………。

………………。

「わ……若―!!!」

若に抱き付いて泣きそうな顔を隠すように胸に押し当てた。

俺、泣きそうになってるなんてカッコ悪ぃ。

でも今はカッコ悪いとかどうでも良い。

今はとにかく幸せだからもうどうでも良いんだ。

堂々巡りみたいにこれからもきっと、

若が誰かに告白される度に俺は悶々とするのだろうけれど。

「お、おい! !」

「良かったねー、

「うん! 長太郎の腹黒さも今なら許せる気分だ」

はいつも一言余計だね」

「ちょ、長太郎、暢気に喋ってないでコイツをどうにかしろ!」

「無理だよ」

「アレ?……ねぇ、若の心拍数高くないか? 高血圧?」

「……」

「……」

「……お、俺は先に部活行くからな!」

「あ」

若は俺を振り払うと耳まで紅く染めて行ってしまった。



「長太郎、若怒っちゃったのか?」

「……」

「俺に抱き付かれるのがそんなに嫌だったのかな? ねぇ、どう思う?」

「……お前ら男同士でウザいから好い加減告白してよ、お願いだから」





























































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