月闇夜





 静かな夜だな、と思う。

 俺の心臓の音が聞こえそうな程に静かな。



 元々眠りが深いのと引き換えに寝つきが悪い俺は、

 布団のなかで暇を持て余すときは羊を数えることにしている。

 古典的ではあるが、これがなかなか良い暇潰しとなるのだ。

 布団のまだひいやりした部分を足先で探しながら頭のなかに羊を飛ばす

 とは言っても、さすがに4桁を超えると段々うんざりしてくるもので。

 羊が2069匹、と心の内で呟き、俺は溜息を吐いた。

 気分転換に布団から抜け出す。

 障子を細く開けて空を見上げた。

 美しい下弦の月とその傍らを棚引く薄雲。

 月の光は弱々しく、それでも闇夜には充分で、少し眩しいくらいだ。



 どうして眠れないだろう、と考える。

 なんて、馬鹿げてるか。

 自分に嘲笑を零す。

 分かっている。

 分かっているのだ。

 こんな気分転換に意味などなく、俺はこの一晩一睡も出来ないであろうことくらい。

 振り向けば安らかに起伏する胸。

 月明かりに照らされた首筋が扇情的で、噛り付きたいとさえ思う。

 空の寝床の隣、は寝返りひとつせずにそこに落ち着いている。

 俺はが俺の家に泊まりに来ると、

 もしくは俺がの家に泊まりに行くといつも眠れない。

 理由は単純なこと。

 俺は欲情しているのだ。

 暗闇のなか、無防備に横たわっているに気分は昂揚し、身体が火照る。

 俺だって思春期最中の健全な男子なのだからどうしようもない。

 健全な男子が同じく健全な男子などに欲情するなんて可笑しな話だが。



 俺が一歩一歩に近寄る度、畳が軋む。

 「

 俺の声が静寂に響く。

 「

 の華奢な身体に覆い被さる。

 薄く開いた唇。

 「

 そうやって誘うのは――

 「ずるいぞ、狸寝入りは」

 の唇に自分のそれを合わせる。

 薄ら開けた視界、の睫毛が震えていた。



 親友を抱きたいと思うようになってどれくらい経つかは分からない。

 いつのまにか感情の類が変わっていって。

 けれどお前はそれに気付いていながらも今も変わらず無防備で。

 俺はそれをどういうふうに汲み取れば良いのだろう。



 翌朝、はいつものように「おはよう、蓮二」と呟いた。



























































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